統合医療としてのヨガ
平成29年度、厚生労働省は『「統合医療」に係る情報発信等推進事業委託費 実施団体の公募』を行いました。
その募集要項には、平成24-26年度厚生労働省科学研究費補助金「地域医療基盤開発推進研究事業」(研究代表者:岡孝和)によって作成されたヨガのエビデンスレポート(構造化抄録)集の参照を推奨する記載がありました。
このことは、ヨガが正式に統合医療として公的に認知されてきていることを表す大きな出来事といえます。
こBCY Institute Japanは、このような背景の元、統合医療としてのヨガの安全性・有効性等に関する科学的知見を収集しつつ、患者・国民及び医師が、その導入を適切に検討できるよう情報発信に努めていきたいと考えています。
また、患者さんやその家族・友人が持つ補完代替医療に対する態度や考え方へ、最も影響を与えるものが補完代替医療に関する情報提供の仕方であり、それによって補完代替医療の利用に影響が出ることを十分理解した上で活動に取り組んでまいります。
ヨガと医療に関する臨床研究
アメリカのがん治療では手術や化学療法といった直接的な治療だけではなく、
患者さんが予後を快適に過ごすことができるよう、ヨガやエクササイズを採り入れる補完療法の研究も活発に行われています。
ヨガと医療に関する臨床研究は、近年急激に増えてきているものの、全般的に大規模なものはまだ少なく、まだまだ研究の限界も否めません。しかしながら、乳がんとヨガに関する研究はその中でも世界的に積極的に取り組まれています。
Yogaに関する医学論文「PubMed (1948-2018.2) 4,073編
- Yoga 4,325 事例
- yoga Cancer 402事例
- Yoga Breast Cancer 182 事例
臨床試験の多くが症状や予後の改善ではなく、QOLの向上や情緒、睡眠に関連したものとなります。
ここでは代表的なものとし、アメリカにおける関連ニュースと臨床研究事例を2件、日本の臨床研究事例 2件をご紹介します。
2010年には、M.D.アンダーソンがんセンターが、がんとヨガの研究に史上最高の450万ドルの助成金を受け話題となりました。
この、Phase III の臨床試験では、M.D.アンダーソンで放射線治療を受けている第0〜3期の乳癌女性が参加するといわれており、患者はヨガ(YG)、ストレッチおよびリラクゼーション(STR)または標準治療のみで運動プログラムには参加しない治療待機対照群(WLC)の3つの集団のいずれかに無作為に割り付けられ、ヨガ群とストレッチ群の患者は、6週間の放射線治療の間、週3日のセッションに参加するというものです。
研究を統括するM.D.アンダーソンがんセンターの Lorenzo Cohen, Ph.D によるインタビューはこちらです。
臨床試験における非常に重要な目的の一つとして、病院にとっての費用効率分析及び医療を利用する上での一般的な費用の評価に加え、患者の作業生産性の調査であることをCohen氏は強調しています。
乳がんに罹患する女性の多くが、子育てやキャリア形成の最中であり、予後もその才能を発揮できる可能性を秘めています。病院にとっての医療改革のためだけではなく、社会全体の機会損失を防ぐためにも、ヨガの医療経済性の高さを証明していくことは非常に重要な課題だと我々も認識しています。
ヨガの実践は、乳がん女性の治療に関連する副作用や生活の質を向上させることができるか? 系統的レビューとメタ解析
Could yoga practice improve treatment-related side effects and quality of life for women with breast cancer?
A systematic review and meta-analysis.
補完代替療法としてのヨガが、乳がん患者の健康や治療に関連する副作用の増強と関連しているかどうかを判断する。この系統的レビューは、ヨガの実践が乳がん罹患女性のために身体的および心理的に測定可能な利益を提供するかどうかを調べた。
2013年6月にPubMed、EMBASEおよびコクランライブラリーを使って無作為化比較試験(RCT)を検索した。Cochrane Handbook 5.2により試験の質を評価し、Stataソフトウェアバージョン10.0を使用してデータを分析した。メタ – 回帰分析およびサブグループ解析も転帰の追加予測因子の同定および不均一性評価のために実施した。
16のRCTに930人が含まれていた。ヨガ群とコントロール群を比較すると、全体的な健康関連生活の質(QOL)、うつ、不安、消化器症状において統計的に有意な差があった。メタ – 回帰分析により、ヨガの練習期間およびコントロール群のタイプにおいて部分的に不均一性が示されたことが明らかになった。サブグループ解析によると、ヨガは3ヶ月以上練習したときにのみ不安に効果が示された。待機リストコントロール群のみが、身体的健康に関するヨガの効果を示した。
現在のエビデンスは、ヨガの実践が乳がんから立ち直る患者のための健康増進、治療関連の副作用を管理するのに有効である可能性を示している。将来の臨床研究において、臨床医は、現在のヨガ実践の効果に関する最良のエビデンスに沿って、患者希望を考慮し意思決定をする必要がある。
監修:矢形寛医師(埼玉医科大学総合医療センター)翻訳:住谷真理子(一般社団法人日本ヨガメディカル協会)
日本人乳がんサバイバーの倦怠感と身体活動量:12 週間ヨガ介入プログラムの結果
Yoga, fatigue, and regular physical activity among Japanese breast cancer survivors
体力科学 第 64 巻 第 4 号 397-406(2015) DOI:10.7600/jspfsm.64.397
(注)全ての研究には、研究の領域とその限界が存在します。
Effects of a combined diet plus exercise intervention on weight loss, physical fitness, and cancer related among Japanese women with breast cancer
体重増加、体力低下および倦怠感は内分泌療法中の乳がん患者において頻繁に見られる症状の1つである。先行研究では、食習慣改善および運動実践が体力や倦怠感等の改善に効果的であることが報告されているが,その多くはアジア人以外を対象とした欧米の研究である。アジア人を対象に同様の研究は少なく,乳がんの発症に人種差があることや食習慣,運動習慣等の違いを考慮するとアジア人を対象に研究をおこなう必要がある.そこで、本研究は内分泌療法中の乳がん患者における食習慣改善および運動実践が体重、体力および倦怠感に及ぼす影響を検討することとした。
内分泌療法中の乳がん患者32名が本研究に参加し、自由意志に基づいて教室参加群および対照群に割り振られた。対照群には通常通りの生活をしてもらうよう促し、教室群には週1回90分、全12回の食事教室および運動教室を開催した。
教室群21名全員が食事および運動教室を完遂した。教室群の体重は教室前と比べ8.7%有意に減少したが、対照群に有意な変化は認められなかった。また、全身持久性体力、柔軟性および倦怠感等の項目において教室群は有意に改善したが、対照群に有意な変化は認められなかった。
本研究を通して食習慣改善および運動実践が内分泌療法中の乳がん患者の体重を減少させ、体力および倦怠感を改善させることが示唆された。