乳がんヨガ指導者養成&患者さまへのヨガ環境整備

乳がんヨガ最新情報

ハッピーマンマさん(福岡)での乳がんヨガ講演内容

こんにちは、ただいまご紹介に預かりました岡部 朋子と申します。今日はこんなにも大勢の方の前で、乳がんのリハビリとしてのヨガのご紹介をさせていただきますことをとても嬉しく思います。
今日の講演をきっかけに、ヨガセラピーという選択肢を一人でも多くの方に知っていただけたらと思います。

今日はまず、ヨガとはそもそもどういうものなのか、というお話をしてから、乳がんのリハビリにヨガをどう活かしていけるのか、ということについてお話したいと思います。

椅子に座ったままではありますが、時々みなさんと一緒にからだを動かしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

▼ なぜ乳がんとヨガなのか

リハビリとしてからだの回復を目指すだけでなく、深くゆっくりとした呼吸で病気と心の問題に向き合うヨガは、ご指摘の通り、他のがんでも他の病気にも、ヨガができることはたくさんあると思います。しかし、なぜあえて乳がんとヨガなのか。その理由についてお話ししたいと思います。
乳がんリハビリとしてのヨガはアメリカで急速に広まりました。

(1) まず、女性にとってかかる割合が高い(約15人に1人)病気であり、患者会やイベントも多く行われています。
(2) そして、かかる年代が他のがんに比べて若い、また患者数が多く支援団体も多いため、早期発見の検査技術、また治療方法も他のがんに比べ進んでいるため、早期発見、治療をすることで社会復帰が十分可能です。働き盛り、子育て真っ盛りに病気になる方が多く、社会復帰をのぞまれたときリハビリの質がその後の人生を左右します。急がず自分を大切にするヨガで光をともせる希望があります。
(3) 患部は女性にとって象徴的な胸であり、胸に対する自信を失ってしまうことが姿勢的にも気持ちを落ち込ませます。ヨガのポーズには胸を開いていくものが多くあります。しかし、治療を続けながら、自分の胸のありようを受け止め、克服していくことは、わかりやすそうでとてもむずかしいことです。

1-2年後にヨガと乳がんに関する臨床研究の結果が(よくもわるくも)発表されると言われています。
マスコミはぱっと飛びつき、話題が広がるとは思います。でも、患者さんが普通のヨガのクラスの扉を開け、クラスに飛び込んだとき、挫折感や劣等感を感じてしまうことがあってはなりません。マスコミは話題を広めてはくれますが誇大表現をする傾向があり、リンパ浮腫などに危険なポーズについては教えてくれないかもしれないのです。
乳がんの患者さんたちが安心して通える環境を今から構築していくためには、今から乳がんにとって安全なヨガとは、という知識を持った先生方を育成していく必要があると思っています。そして、乳がんというひとつの切り口がきっかけになって、他の病気でも、また患者さん自身だけでなくご家族の方々の不安や緊張をとけるようなヨガという存在を知ってもらえたら、という想いがあります。
今日お集りいただいたみなさまにも、自分にもヨガならできた、という声を横につなげていってほしいのです。

▼ ヨガとは何か

ヨガをなんと定義するか。これはとても難しい問題です。
なぜなら、インドで興り、今や世界中に普及しているヨガはどんどん新たなスタイルが生まれ、伝統的なヨガでさえ数えきれぬほどの流派があります。多様すぎて、定義ができないのです。
また、ヨガにはいろいろな手法があります。
からだを動かすことをヨガというのか、呼吸法をヨガというのか、瞑想をヨガというのか。おそらく、そのすべてでしょう。
ただひとついえることは、息さえできれば誰でもできるのがヨガなのです。
健康意識の高い、若い女性たちのためものだけではないのです。

実際、アメリカではヨガが病気のリハビリや、予防医学に活用され始めています。

▼ ヨガの語源

でも、ヨガの語源はひとつですので、まず、ヨガという言葉の語源からお話ししたいと思います。本当の発音はヨーガですが、みなさん聞き慣れないと思いますので、本講座ではヨガでお話しします。
ヨガの語源はYUJといって、むすぶ、とか、つなぐ、という意味です。ヨガを突き詰めていくと、その背景にある、サンスクリット語の文法とインド哲学が大いに関わってくることがわかってきます。そのお話を始めてしまうと、時間がなくなってしまいますので、ここでは要点だけを申し上げますが、インド哲学の背景にあるのは、二元論、つまり、この世の中はすべて対になっているという考え方です。

▼  二元論 月と太陽 男性と女性 陰と陽

陰と陽、月と太陽、男性と女性、生と死、変わるものと変わらないもの、など、あるひとつの概念には必ずその逆の見方が存在するという考え方です。

▼  矛盾や対立はおこるもの

立場を異(い)にするものどうしが、対立しあうのは当然のことです。だからこそ、そのあいだに調和を求め、バランスを見いだしていくことに意義がある、これがヨガの語源です。ですから、ヨガの教えでは 男性と女性が、尊重しあうことで、世界に意味が生まれる、と説いています。

▽ ポーズ ナマステ

こんなことをしてみましょう。

みなさん、両手を胸の前で合わせてみましょう。これは、インドで日常的になされる挨拶「ナマステ」の手になりますが、ひとつの手は自分の中の美しい面、いい面、好きな面、ひとつの手は自分の中の、醜い部分、避けたい部分、嫌いなもの、などを象徴していると言われています。

みなさん、今、胸の前で合わせているそれぞれの手に自分の好きなところ、嫌いなところを思い描いてみてください。きっとみなさん、好きなとこだけがある人、嫌いなところだけがある人はいないと思います。人は誰しも、両方もっているのです。たとえば、私の例でいえば、子供は可愛いけど、仕事は楽しい。におうけど納豆だけは欠かせない。その、どちらも、愛おしい自分です。この、ナマステの手は、そんないいところも悪いところもある自分を、しっかり抱きしめてあげましょう。これがありのままの私ですよ。という祈りが込められています。

▽ ポーズ ナマステ ごあいさつ

さあ、みなさん、そんなことを考えながら、今近くの席に座っている方と、心の中でナマステ、とご挨拶してみましょう。
そして、相手の方のとてもキラキラした今の表情を、忘れないでいただきたいのです。
みなさんの相手を見るまなざしが、ヨガの語源であり、ヨガそのものなのです。
好きなところも嫌いなところも、どちらも本当の自分。それを認めてあげられたら、ありのままの自分で、こんなに素直なご挨拶ができるのです。自分だけではなく、目の前もこの方も、きっと好きなところ、嫌いなところ、両方あるんだ、ということもわかると、親近感が湧いてくると思います。 この世は多様性に満ちており、様々な矛盾や葛藤がうずまいています。それを、対立ではなくて、調和にもっていく努力が大切なんですよ、とヨガでは説いています。

■(動作)首を軽く振る イヤイヤ

別な例でもご紹介しましょう。みなさん、首を軽く横に振ってみましょう。

さて、みなさん、今横に振った動きは、正しくできましたか。それとも間違っていましたか?

(沈黙)

そうです。一見いやいやをしているようですが、今やっていただいたことには、正しいも間違っているもありません。そして、みなさん自身も、何かが正しい、間違っていると、判断しようとしていなかったと思います。

おそらくみなさん自身、善悪の判断を一切加えることなく、首を動かしていただいたのだと思います。

▼ 「マインドフルネス」「善悪の判断を一切加えることなく、目の前の状況を静かに観察すること」

これを、禅の言葉で「マインドフルネス」といい、ヨガセラピーにおいて大切な概念となります。

「善悪の判断を一切加えることなく、目の前の状況を静かに観察すること」という意味です。

これは、ある一定の条件の下でないとできないことです。その条件とは何かというと、シングルタスクというものです。

これは、反対の例から説明した方からわかりやすいかもしれません。
私たちの日常生活を、考えてみましょう。
私たちは、朝起きて、テレビをつけながら食事をし、電車に乗りながら携帯をチェックし、パソコンの画面を見ながら電話で話しています。
つまり、生活自体が、限りなくマルチタスクになりかねない世の中を生きています。

現代文明のもとでは、私たちは効率的に働き、経済成長をめざし、情報の処理能力はどんどん高まる一方です。テレビをつければ、時短生活が誇らしげに語られ、みなさんはお湯がゆっくり沸くのを待っていられるでしょうか。おそらく、電気ポットの速さに慣れてしまっているのではないでしょうか。

▼  お湯がゆっくり沸くのをまっていられますか?

マルチタスクの最中には、善悪の判断や比較はできたとしても、先ほどの「マインドフルネス」という心のあり方はできません。シングルタスク、つまり一度にひとつのことだけをする、という時間をもてて初めて、私たちは観察し、気づき、穏やかでいられるのです。

▼ マルチタスク → シングルタスク

昔の日本の生活には、この「一度にひとつのこと」を味わう文化が息づいていました。茶の湯、生け花、どれをとっても、ながら族では、できないことばかりです。もちろん昔の武将たちも忙しく、考えることが多かったことでしょう。でも、だからこそ、そのような時間をとることで精神のバランスをとっていたのではないでしょうか。

▽ ポーズ 自分を抱きしめて5秒呼吸

ちょっとこういうエクササイズをしてみましょう。
自分のことをぎゅっと抱きしめてみましょう。
そのまま、ゆっくりと自分の呼吸を5回数えてみましょう。

自分を抱きしめて、呼吸を5回数えてみる。自分の身体が膨らんだり沈んだりしていることがわかりますか?

そのときに、必ずしもリラックスしなくてもいいのです。今、自分は緊張しているかもしれない。そのことをありのまま観察してみていただきたいのです。

これはヨガのポーズでしょうか。はい、自分が存在している、ということを確認しているという意味で、ちゃんとしたヨガのポーズなのです。

私はあまり、日本人が使わないサンスクリット語をクラスで多用するのが好きではないのですが、ヨガではポーズのことをアーサナと言います。

▼  あ いる

アーサナという言葉は、サンスクリット語の基礎母音である「ア」という母音が派生したものです。そして、この「ア」という音は「いる」を意味します。ここで大切なのは「いる」であり「する」ではないということです。

英語で言うと、ヨガのポーズとは「BE」という意味であって、決して「DO」ではありません。ここを読み違えると、ヨガイコール修行、あるいはヨガイコール身体をやわらかくするための体操、になってしまいます。

実は、ヨガのポーズの中で一番難しいのは、動かないでじっとしているポーズです。
私たちは、毎日「何をしたらいいか」についてばかり考えて暮らしています。人からの評価や判断を気にするのも、自分が「何をしたか、何をすべきか」についてであり、自分の存在そのものであることは、ほとんどないと思います。

▼ Do ではなく、Be

ヨガで大切なことは、DoではなくBeを意識することです。
つまり、何をするかではなく、自分が今確かに存在していることを実感することです。

何をしたらいいか、がテーマになってしまうと、そこに善し悪しが生まれてしまいます。しかし、私たちがいる、存在しているということに、善し悪しはありません。私たちが今、こうして生きていることがまぎれもない正解なのです。ありのまま、存在していることは、正しいことなのです。

▼ マインドフルネスとは犯人探しをしないこと 自分をちゃんと見つけること

さて、そろそろヨガが様々な病気のリハビリとして注目を集め始めていることについてお話ししたいと思います。

ちょっと大胆な言い方をしてしまえば、ヨガでがんは消えません。どんなに深い呼吸が身体によく、免疫によい影響を与えるとしても、ヨガで病気は治らないのです。

でももしかしたら、ヨガは、病院では出してもらえない薬の代わりをしてくれる可能性はあるかもしれないのです。

たとえば、検査結果がでるまでの不安でたまらない時期、手術が無事終わり、リハビリをしながら社会復帰を目指そうというときの、自信のなさ、などに、お医者さんは薬を出してくれません。

患者さんを心配し、夜も眠れないご家族のために出してもらえる薬もありません。

これまで、長々とヨガとは何かについてお話ししてきたのは、ヨガがポーズに重きを置いた単なる運動療法ではなく、呼吸や身体の動きに意識を向け、今生きている自分自身に気づくことだということをお伝えしたかったのです。
犯人探しの手を少し休めて、あなた探しをする時間、自分をちゃんと見つけてあげる時間をちょっととってもらえたら、そんなメッセージがヨガなのです。

私は、ヨガのクラスでよくこういうお祈りをします。
日本は、宗教が自由ですがが、もともとヨガはインドで神様へのお祈りの儀式から始まりました。日本で、インドの神様を拝む必要はありませんが、根底にあるのは今お話しした「存在できること」への感謝です。

「今日、私がここにいることを、私自身がちゃんと思い出し、感謝できますように」
「今日、私がこうしていることを、喜んでくれる人がいます。ありがとうございます」

もしよろしければ、手を合わせて一緒につぶやいていただければと思います。

▽ ヨガのお祈り 喜べますように

「今日、私がここにいることを、私自身がちゃんと思い出し、感謝できますように」
「今日、私がこうしていることを、喜んでくれる人がいますように」

ヨガイコール何かの改善、でもなく、ヨガイコールリラックスでもありません。ヨガは自分と、もっといえば、自分だけと向き合う時間なのです。

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そうは言いながらも、リハビリとして具体的なメリットがまったくないわけではありません。

▼  乳がんリハビリヨガの二つの流れ

乳がんリハビリヨガには、大きくわけて、二つの流れがあります。

ひとつは、ヨガの動きを応用して、腕の可動域をあげていきましょう、ということです。

▼ 無理なく、腕の可動域 アップ

手術のあとの腕の可動域の回復には、時間がかかります。理学療法士さんのもと、目盛りとにらめっこしながら、というやり方もあるかもしれません。でも、それに加えて、もうひとつ、ヨガをしながら少しずつ可動域をあげていく方法も、選択肢に入れていただけたらと思うのです。

たとえばですが、こんな動きを一緒にやってみましょう。

▽ ポーズ 心の扉を開くポーズ

顔の前で、手のひらをそっと合わせます。
息を吸いながら、心の扉を開くように両腕を開きます、息を吐きながら、こんどは自分の世界を大切に、
もう一度やってみましょう。
息を吸いながら、開いて、吐きながら、今度は自分の居場所への安心感です。

最初は、これぐらいしか開かないかもしれません。でも、このポーズには、完成形や、目標とする角度があるわけではありません。一人一人、気持ちよくできる角度は違っていいのです。

▼ 腕の付け根を知ることで

▽ ポーズ 腕の付け根を探してみよう。

それから、みなさん、腕の付け根は、どこにあると思いますか? 肩の後ろでしょうか。
まず、腕の付け根を触ってみてください。そしてこんどは、
みなさん、腕の付け根から、腕を回してみてください。

ではこんどは、鎖骨を触り、腕を動かしてみてください。
どうでしょう、鎖骨から腕が動いていませんか?
面白いですね。鎖骨から腕を動かすと、さっきはこれぐらいだったのに、こんなに腕が回ります。人間のからだは、意識したところから動いていくんですね。
そうです。だから、腕の動きをよくしていくには、鎖骨まわりをゆるめていくといいんですね。さきほど、乳がんの手術のあとは大胸筋がかたくなるというお話もいただきました。

鎖骨を動かすにはどうしたらいいと思いますか?
そう、首をゆっくり回してみます。

▽ ポーズ ペン先で首回し

首の先にペンがついていると思ってください。そのペン先で、できるだけ丸い円を書いていきます。反対側も。
こんどは、できるだけ大きなマルを書いていきます。
反対側も。
では、今度は上半分は大きな半円を描き、下半分は脱力してみます。
反対まわりもどうように。

このように、思いっきり何かをやって、脱力、というのも、緊張と弛緩を活かしたヨガのテクニックなんです。私たちは、さあ、始めから脱力して、と言われてもなかなかできるものではありません。でも、おもいっきりからだを動かしたあとは、上手に力を抜けるものです。

先ほどお話しした、正反対のなかに調和がある、ということですね。

こんなことも鎖骨の前をゆるめます。

ポーズ 肩をすくめてすくめて、ハイ脱力

さあ、肩をすくめて、すくめて、すくめて、後ろにひいて、さあ脱力です。
今度はこれに呼吸を加えてみましょう。
息を吸ってすくめてすくめて、大きく吐きながら、ハイ脱力です!

▽ ポーズ 腰から腕が生えていた!

さて、今度は腰をさわってみましょう。

腕の動きになんで腰?と思われるかもしれません。
みなさん、自分の背中を片手で触り、もう片方の腕を上げたり下げたりしてみましょう。
腰、動いていませんか?そうなんです。腕は、腰から動いているんですね。

実は腕の動きは、背中のずっと下の方にある広背筋と横方形筋が関わっているのです。

▽ ポーズ ひねって腕の動きの違いを感じよう

ですので、腕の動きをよくしたいときは、鎖骨をゆるめるのと同じように、腰の緊張をとってあげるといいんです。実験してみましょう。今、無理なく腕を上げてどれぐらい腕が上がりますか?

では、今度は足を軽く組んでみます。組んだ足の方にひねりますね。背もたれと、持ちやすいところを持って、息を吸って準備します。
息を吐きながらからだを絞っていきます。
息を吐ききったら、吸ってゆるめましょう。反対側も同じように。
あと、2回、十分からだをひねります。
なぜひねるかと言うと、腰、広背筋と、横方形筋は斜めにはしっているんです。だから、まっすぐの伸ばすよりも斜めに伸ばした方がよく伸びるんですね。

さあ、腕を上げてみましょう。どうでしょうか。少しですが、腕が上がりやすく感じられたらいいな、と思います。

▼ 不安にさようなら

ヨガのリハビリとしての効果は身体に対するものばかりではありません。心のリハビリテーションという側面もあります。

検査を待つ間や手術の前、治療中は不安を感じないでくださいということの方が無理だと思います。

▽ ポーズ 寄せては返す波のポーズ

では、不安や緊張を和らげるには、どうしたらいいでしょうか。
それには、呼吸を滑らかに遅らせていくことが最も効果的です。
私たちは、不安になったり緊張したりしているときはきまって呼吸が早くて浅いものです。逆に、呼吸がゆっくりなってくると、嫌なことを考えなくなってきます。

足を軽く開いて座ります。手はひざの上に軽く乗せます。

まず、鼻から息をゆっくり吐いていきましょう。吐きながら、背中を丸めて、おへそを見るようにしていきます。吐ききったら、今度はできるだけゆっくり息を吸いながら、背中を伸ばし、軽く反らせていきます。反らすのは、軽くでいいです。お顔を天井に向けるぐらいの気持ちで十分です。

さあ、ではこれに腕をつけていきましょう。吐きながら、何かを包み込んで、安心させてあげるように、吸いながら、大きく気持ちを開いていきましょう。繰り返します。

私はこのポーズを、わかめのポーズと呼ぶこともあるのですが、みなさん、海の中でゆらゆら揺れている若布や昆布になったつもりで、できるだけなめらかに行ってみましょう。息を吐きながら、身体を丸めていきます。
息を吸いながら、背骨を伸ばし、おもてを上げていきます。繰り返します。
あと一往復いってみましょう。吐きながら、丸めて、吸いながら、伸ばします。

みなさん、ありがとうございました。
さあ、ちょっと背中を伸ばして座ってみてください。どうでしょうか。骨盤が立ちやすくなり、先ほどより、姿勢がよくなった気がしませんか?

今やっていただいた動きは、呼吸にあわせた骨盤の動きに、あえて呼吸を大げさに同調させてみることで、呼吸と身体の自然な動きを意識しながら、ゆっくり行うことができる簡単な運動です。意識しながら行うことで、ゆっくりできる、つまり、呼吸をゆっくりできる、というわけなんですね。

椅子にただ座って、はい、ゆっくり呼吸してください、と言われても、おそらくみなさん途中から苦しくなって顔が真っ赤になってしまうと思います。この動きは、やっているうちにどんどん背骨もしなやかになって、身体を揺らすのが気持ちよくなっていくのが特徴です。

▼ 衰えさせないで 脚の力

リハビリと言うと、腕のこと、心のことばかり考えがちですが、

将来的に社会復帰を見据える上で、実はとても大切なのが、足の力です。
病院に通うだけで気持ち的にもいっぱいいっぱいで、それ以外はあえて外出はしていない、あるいは、とにかく人に会うのを避けたい、という時期もおありかと思います。気持ちが守りに入り、今までしていた運動もやめてしまった、という方もいるでしょう。
でも、足の力が衰えてしまうと、ますます外出する機会は減ってしまいます。また、ふくらはぎの筋力が落ちてしまうと、血液やリンパ液を心臓に戻す力が弱くなってしまいます。疲労がとれにくいからだになってしまうわけです。

▽ デモポーズ:ふくらはぎの力

せっかく治療をして、普段通りの生活ができるようになったのに、なんだか身体の疲れがとれない、というのは、言葉通りまだ体力が回復していない、ということでもありますが、それはももやふくらはぎの筋肉の衰えが原因かもしれないのです。

ですので、今日この講演をお聴きになって、じゃあそろそろヨガでも始めてみようか、ということでなくて構いません。一日一回でいいので、どんなかたちでもいいので、今日も足の筋肉をちゃんと使ったな、という気持ちを持っていただきたいのです。

▼ 動くところをどんどん動かしていこう

ポーズ 足首をくるくる回してみよう、伸ばして縮めて、でもいいです。

たとえば、椅子に座ったまま、足首をクルクル回すだけでも構いません。伸ばして、縮めて、でもいいです。テレビを見ながら床に座って、足首を回すのでもいいです。

▽ デモポーズ 椅子につかまってスクワット 

自宅で取り組めるポーズとしては
椅子につかまって、深呼吸をしながらスクワットをするでもいいです。

▽ ポーズ お尻歩き 笑って

意外と人気があるのは、お尻歩きですね。これはいいですよ。椅子に座ったままでもできるんですよ。ちょっとみなさん、やってみましょうか。お尻のお肉を交互に椅子から離して、腰を振りましょう。お尻の筋肉だけでなく、腕も振りますし、腹筋にもはたらきます。腰をひねるので、さきほどの広背筋、横方形筋にもよくききます。

何よりいいのは、これ、むっつりした顔でできる人って、あまりいないんですね。なんかわかんないけど、笑っちゃう。みなさんいい笑顔をされています。自分のやっていることを笑えるのは、こころの健康のバロメーターだと思います。

病後の回復期は、保守的になって当然です。私の父もこの春、高齢になってからがんと診断されました。その前から、ヨガをいっしょにやろうと誘い続けていたのですが、腰も痛い、膝も痛いのに、そんなことはできない、の一点張りでした。

▼  動かせるところは積極的に動かそう

でも、身体のどこかに痛みがないところはきっとあるわけです。そこをまずは動かしてもらいましょう、というわけで、父の場合は、偉大なるお腹でした。ふっくらしたお腹には痛みはありませんでした。「お父さん、寝て!」「おう、こうか」お腹に、サンドバックと呼ばれる砂の袋を乗せました。3キロぐらいありますが、これを乗せて呼吸をすることで、いわば横隔膜の筋トレになり、深くてゆっくりとした呼吸ができるようになります。「お父さん、息して!」「おう、こうか」
メディカルヨガの現場なんて、実際はこんな簡単なことから始まっているわけです。深い呼吸が心を前向きにしてくれ、もうひとつ続けてほしいと部屋中に紙を張りまくったスクワットを始めてくれました。それによって、踵から着地できるようになったというのです。歩くのが怖くなくなり、今では、がんを抱えたまま元気に競馬に通っています。

デモポーズ :踵から歩く

もちろん、病状によってこのケースが当てはまらない場合もあります。でも、今日みなさんにお伝えしたいことは、動かせるところは意外とたくさんある、ということです。

乳がんリハビリヨガは、つまり、まだまだ動かせるところを呼吸にあわせて無理なく動かしていきながら、何も考えない。いや、何も考えない、というのは人間は無理なので、呼吸を数えてみたり、身体に意識を向けたりして、普段の生活でいろいろ考えすぎてしまうみなさんの大脳小脳に、すこし休暇を取らせてあげましょう、という提案です。ですので、このポーズをすればこれがよくなった、とか、これがてきめん効いた、とかそういうことではないのです。

大切なのは、からだを動かして、血の巡りをよくしてあげれば、心の風通しも良くなるから、まあ、やってみましょう、ということなのです。

▼ ヨガは長くゆっくり効く薬

乳がんリハビリとしてのヨガ、をお伝えするときに、一番気をつけていることがあります。それは、ヨガは魔法ではない、ということです。ヨガをやれば、嘘のように気分がよくなる、とか抱えている問題がすべて解決するわけではありません。

でも、ヨガは、ゆっくり長く効く薬のようなものだと言えるかもしれません。
西洋医学の薬は、もしかして、効き目も早いかもしれませんが、その効き目もすぐに遠のいてしまいます。ヨガは、効き目を実感するのには、もしかして時間がかかるかもしれませんが、一度効き始めると、長く、ゆっくりそのよさが続きます。

そしてもうひとつ大切なことは、今している治療を否定するものではなく、むしろ応援する力になるということです。

もし、ヨガに効能があるとすれば、しばし時間を忘れて、自分の中にスペース、空間がうまれた、ということかもしれません。

わたしが普段お伝えしているのは、ヨガは「スペースクリエイター」だ、ということです。

▼ ヨガはスペースクリエイター

私たちがとにかく辛いと思うとき、それはもちろん病気による体調の悪さ、痛み、などもありますが、からだと心にスペース、空間がなくなってしまったとき、だと思うのです。たとえば、気持ちが落ち込んで、姿勢が悪くなったり、運動不足になったりすると、からだを動かすのもおっくうになってしまいます。それを無理矢理運動に励みなさい、というのはやはり少々乱暴なやり方であって、少しずつ、身体の中の空間を広げていくお手伝いをしていくのが、先生の仕事なのではないかと思っています。身体のスペースが広がっていくと、心のスペースも広がっていく、というわけです。

そのスペースの鍵を握るのが、前半にお話しした「シングルタスク」になります。

そうでなくとも、みなさんのスケジュール帳には、毎日予定がいっぱいいっぱいではないでしょうか。それは、現代社会を生きていく上では仕方がないことです。でも、だからこそ、ヨガ教室に足を運んでみたり、ヨガをする時間を設けてもらったりしてほしいのです。マインドフルネス、つまり犯人探しの手をちょっと休めて、善悪の判断はいっさいせず、目の前のことを観察してみる時間をわざわざつくってみてほしいのです。何かをじっくり観察してみるような、時間の余裕も心の余裕もないから、自分が今、生きていることの実感すら、薄くなってしまう、病気を抱えている抱えていないに関わらず、情報があふれる現代はそういう時代だと思います。

ヨガによって少し気持ちに余裕が生まれ、応援してくれる家族や先生、スタッフの方々やご友人に感謝の気持ちが生まれたら、それが一番の薬かもしれません。

▼ 近くのヨガクラスに参加してみましょう

まだまだ専門のクラスは多いと言えませんが、近くにヨガ教室があればぜひ体験クラスをのぞいてみていただければと思います。
よっぽど運が悪くなければ、理解のないヨガの先生はいないので安心してください。そしてみなさんの方でも一般的なクラスに参加するときは、次のことを心がけていただきたいのです。

先生に、治療中、術後であることを伝える。
疲れたら、座って、あるいは横になって休む。
他の人とポーズを比べない。
今日はこのぐらいでいいや、というところを探す。上手に手を抜く。

例えば、先生が手を挙げていたら、半分上げればいいのです。
4回やっていたら、2回やればいいのです。

疲れたら座ったり、横になったりしましょう。

それから、リンパ浮腫予防のために気をつけてほしいことがいくつかあります。
それは、腕に体重がかかりすぎるポーズは避けていただく、あるいは椅子や壁などで体重を緩和していただきたい、ということです。

たとえば、こういうポーズはこういうふうに

犬のポーズは椅子や壁を使って
チャトランガやコブラのポーズは壁を使って
四つん這いのポーズは椅子に腕を預けて、あるいは座ったままで
三角のポーズは後ろで手を組んで(腕に圧力をかけない)
日本では、乳がんの患者さんが安心して通えるスタジオというのは、まだまだ多くありません。でも、少しずつ増えてきています。参加者を乳がんの方だけに限り、ウィッグを外してヨガをしよう、というクラスもありますし、ご家族と一緒に受けられるクラスなどもあります。私がこの仕事をしていて一番希望を持っているのは、乳がんリハビリヨガを伝えていただく方が、実際に乳がんを治療され、リハビリに励み、ヨガに出会い、その体験を同じような不安を抱えている仲間に伝えていこう、という方がどんどん増えていることです。ご自身が乳がんを、というだけでなく、自分の家族が乳がんになったことをきっかけにヨガを学ばれる方もいらっしゃいます。これは、日本だけでなく、世界的に広まっている動きです。

▼ みなさんも教えてみませんか?

私もこの仕事を始めるにあたり、ペットで全身のがんの検査を受けました。今のところ、がんは見つかっていませんが、これからどうなるかわかりません。でも、乳がんリハビリとしてのヨガを伝えていくにあたり、私には決して超えられない川が存在することも事実です。同じ体験をした先生にだからこそ、安心して打ち明けられること、相談できること、ということは必ずあると思いますし、逆も言えると思います。私がいま、がんにかかっていないからこそできることがあるかもしれませんし、がんを克服された方の中には、がんであったことを忘れるぐらいの気持ちで生活をしたい、という方もおられることでしょう。なので、どちらがいいか、ということではないのですが、一度乳がんを体験している方にとって、ヨガを教えていただくことをひとつの可能性として考えてみていただきたいのです。決して無理なことではないということを証明してくれる先生がすでにたくさん活躍されていますし、ヨガをすることでご自身のためにもきっといい時間を過ごしていただけると思います。何かを教える、指導をする、と思ってしまうと難しく思えてしまうかもしれませんので、むしろ、一緒にヨガを楽しみましょう、というぐらいの気持ちで十分です。

これからの10年、日本の乳がん患者さんが、安心してヨガを楽しめる環境づくりに努めていきたいと思っていますが、鍵を握るのは私ではなく、地元のヨガ教室だと思っています。今日はお話をいただく機会をいただきましたが、実際患者さんが通えるところでクラスが開催されていることが、一番大切です。ですので、今日この講演に足をお運びいただきましたみなさんにも、ぜひヨガというものが、思っているほど難しいものではないということを知っていただき、ご自身でもぜひやってみていただけたらと思います。

興味のあるグループの方々はぜひ、私のウェブサイトから「講習会希望」と連絡をいただければと思います。喜んで、お伺いいたします。

それでは、最後にもう一度、みなさん両手を合わせ、隣近所の方と、ナマステ、とご挨拶してみてください。お腹空いたね、でもいいです。そして、この、お互いの穏やかで和やかな表情を覚えておいていただきたいのです。今のみなさんの顔こそが、生きているヨガのかたちです。
本日は、ご清聴ありがとうございました。

(注)本記事はBCYの前身であるルナワークスの乳がんヨガHP当時のものとなります。
2013年11月8日 | 講演情報など
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