乳がんヨガ指導者養成&患者さまへのヨガ環境整備

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乳がんヨガ最新情報

【10/12】埼玉医科大学 市民公開講座での講演内容

10/12に行われました埼玉医科大学日高キャンパス 市民公開講座での「乳がんリハビリヨガ」に関する講演内容です。
一人でも多くの乳がん患者さんやその家族に、治療やリハビリ、社会復帰を応援するヨガがあることを知っていただけたらと思います。色紙を3枚とのことでしたので「今いることにありがとう、それがヨガです」「ヨガはゆっくり長く効く薬、息さえできれば誰でもできます」「ヨガは安心できる場所、リラックスは貯金できます」と書きました。

「乳がんに負けない、明るく生きよう」
http://www.saitama-med.ac.jp/kokusai/topics/topics20131012.html

こんにちは、ご紹介に預かりました岡部 朋子と申します。
今日はこんなにも大勢の方の前で、乳がんのリハビリとしてのヨガのご紹介をさせていただきますことをとても嬉しく思います。
この講演をきっかけに、ヨガセラピーの可能性を一人でも多くの方に知っていただけたらと思います。

今日はまず、ヨガとはそもそもどういうものなのか、というお話をしてから、乳がんのリハビリにヨガをどう活かしていけるのか、ということについてお話したいと思います。

みなさんそろそろおなかも空かれ、お昼前の一時間は、とても長く感じられるかと思いますが、昼食をいつもより美味しく食べられますように、時々みなさんと一緒にからだを動かしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

まず、ヨガという言葉の語源からお話ししたいと思います。本当の発音はヨーガですが、みなさん聞き慣れないと思いますので、本講座ではヨガでお話しします。
ヨガの語源はYUJといって、むすぶ、とか、つなぐ、という意味です。ヨガを突き詰めていくと、その背景にある、サンスクリット語の文法とインド哲学が大いに関わってくることがわかってきます。そのお話を始めてしまうと、時間がなくなってしまいますので、ここでは要点だけを申し上げますが、インド哲学の背景にあるのは、二元論、つまり、この世の中はすべて対になっているという考え方です。

陰と陽、月と太陽、男性と女性、生と死、変わるものと変わらないもの、など、あるひとつの概念には必ずその逆の見方が存在するという考え方です。

みなさん、こういうマークを見たことがありますでしょうか。よく、ヨガのシンボルとして使われる図形ですが、このなかの上向きの三角形は男性原理を、下向きの三角形は女性原理を表しています。つまり、男性と女性が、尊重しあうことで、世界に意味が生まれた、ということを示しています。
立場を異(い)にするものどうしが、対立しあうのは当然のことです。だからこそ、そのあいだに調和を求め、バランスを見いだしていくことに意義がある、これがヨガの語源です。
それでは、みなさん、首を軽く横に振ってみましょう。

さて、みなさん、今横に振った動きは、正しくできましたか。それとも間違っていましたか?

そうです。一見いやいやをしているようですが、今やっていただいたことには、正しいも間違っているもありません。そして、みなさん自身も、何かが正しい、間違っていると、判断しようとしていなかったと思います。

おそらくみなさん自身、善悪の判断を一切加えることなく、首を動かしていただいたのだと思います。

これを、禅の言葉で「マインドフルネス」といい、ヨガセラピーにおいて大切な概念となります。
「善悪の判断を一切加えることなく、目の前の状況を静かに観察すること」という意味です。

これは、ある一定の条件の下でないとできないことです。その条件とは何かというと、シングルタスクというものです。

これは、反対の例から説明した方からわかりやすいかもしれません。
私たちの日常生活を、考えてみましょう。
私たちは、朝起きて、テレビをつけながら食事をし、電車に乗りながら携帯をチェックし、パソコンの画面を見ながら電話で話しています。
つまり、生活自体が、限りなくマルチタスクになりかねない世の中を生きています。

現代文明のもとでは、私たちは効率的に働き、経済成長をめざし、情報の処理能力はどんどん高まる一方です。テレビをつければ、時短生活が誇らしげに語られ、みなさんはお湯がゆっくり沸くのを待っていられるでしょうか。おそらく、電気ポットの速さに慣れてしまっているのではないでしょうか。

マルチタスクの最中には、善悪の判断や比較はできたとしても、先ほどの「マインドフルネス」という心のあり方はできません。シングルタスク、つまり一度にひとつのことだけをする、という時間をもてて初めて、私たちは観察し、気づき、穏やかでいられるのです。

昔の日本の生活には、この「一度にひとつのこと」を味わう文化が息づいていました。茶の湯、生け花、どれをとっても、ながら族では、できないことばかりです。もちろん昔の武将たちも忙しく、考えることが多かったことでしょう。でも、だからこそ、そのような時間をとることで精神のバランスをとっていたのではないでしょうか。

話を戻しますが、ヨガセラピーというときによく持ち出されるこの「マインドフルネス」という心のあり方は、私たちの生活に一度にひとつのことだけをするという機会をもたらすことによって、実感できるようになります。

約3000年前、ヨガの興りは何かというと、苦しみからの解脱です。解脱、というとなんだか宗教めいてしまいますが、当時は、輪廻と呼ばれる運命から解放され自由になりたい、という祈りがありました。インドにあるカースト制度、というものを聞いたことがあるでしょうか。当時インドの偉いお坊さんがやっていたヨガと、不可触民がやっていたヨガは違うものでした。それは、偉いお坊さんの不安や苦しみと、不可触民の不安や苦しみは、異なっていたからです。

ヨガがインドで生まれたのは3000年前とも5000年前とも言われていますが、当時からこんにちまで、人類をおびやかし苦しめてきたものは何だったのでしょうか。それは「時間」です。時間の概念を認識して初めて、人は不安や恐怖を抱くようになりました。みなさんの生活を振り返っていただいたとき、いかに私たちがストレスを感じているとき「時間がない」「約束の時間に遅れそう」「締め切りが迫っている」など、時間に関する問題が多いことでしょうか。

現代社会でヨガが温故知新の驚きをもって迎えられているのも、この時間によるストレスを考えると必然のような気がしてきます。私たち人類は文明を進化させてきました。しかし、それと引き換えに昔以上に時間の奴隷に成り下がっていると言わざるを得ません。

ヨガをなんと定義するか。これはとても難しい問題です。
なぜなら、インドで興り、今や世界中に普及しているヨガはどんどん新たなスタイルが生まれ、伝統的なヨガでさえ数えきれぬほどの流派があります。多様すぎて、定義ができないのです。
また、ヨガにはいろいろな手法があります。
からだを動かすことをヨガというのか、呼吸法をヨガというのか、瞑想をヨガというのか。おそらく、そのすべてでしょう。
ただひとついえることは、息さえできれば誰でもできるのがヨガなのです。
健康意識の高い、若い女性たちのためものだけではないのです。

実際、アメリカではヨガが病気のリハビリや、予防医学に活用され始めています。

話をヨガの定義に戻します。
ヨガセラピーといったとき、ポーズが上手にできるかどうか、ということはほとんど重要ではありません。

ヨガをしていないとき、忙しい、忙しいという生活を送っていたとしても、ヨガに取り組んでいる間だけは、自分の心、自分の身体、今の自分に意識を向けることができ、さきほどのマルチタスクなあり方から離れ、シングルタスクの時間を味わえたとすれば、それは立派なヨガの時間なのです。
先ほどお話ししましたように、私たちが時間の概念をひととき忘れ、今という瞬間にとけ込める時間があることで、私たちは初めて(ゆっくり読む)「善悪の判断を一切することなく、目の前の状況を優しく観察する余裕」というものをもつことができるのです。

ヨガ教室に行ったことがある方は思い出してみていただきたいのですが、ヨガをしているとき、私たちは否応がなしにシングルタスクにならざるを得ません。先生に「はい、呼吸に意識を向けて〜」「はい、指先に意識を向けて〜」などと言われている間、たとえ少々の雑念が入ったとしても、普段の生活に比べれば限りなくシングルタスクに近い時間です。

さきほど、私たちの生活は時間に支配されている、時間が苦しみを生む、ということをお話ししました。私たちが、普段、不安を感じたり、後悔したりするときは、きまって過去か未来のことです。今、おなかがすいて本当にどうしよう、という悩みはあまり聞きません。将来、子供があの学校に入れるかな、とか、昔、こうしておけばよかった、とか、悩む時、私たちの心は今この瞬間を離れてしまっています。
ヨガで行っていることは、過去や未来に飛んでいってしまった気持ちを、今という中間点に戻してあげることなのです。

別な例を挙げてみます。みなさん、両手を胸の前で合わせてみましょう。これは、インドで日常的になされる挨拶「ナマステ」の手になりますが、ひとつの手は自分の中の美しい面、いい面、好きな面、ひとつの手は自分の中の、醜い部分、避けたい部分、嫌いなもの、などを象徴していると言われています。

みなさん、今、胸の前で合わせているそれぞれの手に自分の好きなところ、嫌いなところを思い描いてみてください。きっとみなさん、好きなとこだけがある人、嫌いなところだけがある人はいないと思います。人は誰しも、両方もっているのです。たとえば、私の例でいえば、子供は可愛いけど、仕事は楽しい。におうけど納豆だけは欠かせない。その、どちらも、愛おしい自分です。この、ナマステの手は、そんないいところも悪いところもある自分を、しっかり抱きしめてあげましょう。これがありのままの私ですよ。という祈りが込められています。

さあ、みなさん、そんなことを考えながら、今近くの席に座っている方と、心の中でナマステ、とご挨拶してみましょう。
そして、相手の方のとてもキラキラした今の表情を、忘れないでいただきたいのです。
みなさんの相手を見るまなざしが、ヨガの語源であり、ヨガそのものなのです。
好きなところも嫌いなところも、どちらも本当の自分。それを認めてあげられたら、ありのままの自分で、こんなに素直なご挨拶ができるのです。自分だけではなく、目の前もこの方も、きっと好きなところ、嫌いなところ、両方あるんだ、ということもわかると、親近感が湧いてくると思います。 この世は多様性に満ちており、様々な矛盾や葛藤がうずまいています。それを、対立ではなくて、調和にもっていく努力。

さあ、乳がんのリハビリとしてのヨガのお話までもう少しです。もう少し、ヨガとは何か、というお話におつきあいください。

私はあまり、日本人が使わないサンスクリット語をクラスで多用するのが好きではないのですが、ヨガではポーズのことをアーサナと言います。

アーサナという言葉は、サンスクリット語の基礎母音である「ア」という母音が派生したものです。そして、この「ア」という音は「いる」を意味します。ここで大切なのは「いる」であり「する」ではないということです。

英語で言うと、ヨガのポーズとは「BE」という意味であって、決して「DO」ではありません。ここを読み違えると、ヨガイコール修行、あるいはヨガイコール身体をやわらかくするための体操、になってしまいます。

実は、ヨガのポーズの中で一番難しいのは、動かないでじっとしているポーズです。
私たちは、毎日「何をしたらいいか」についてばかり考えて暮らしています。人からの評価や判断を気にするのも、自分が「したこと」についてであり、自分の存在そのものであることは、ほとんどないと思います。
幸い、日本という国は、私たちの存在そのものが脅かされるような政情不安のもとにはありません。

ヨガで大切なことは、DoではなくBeを意識することです。
何をしたらいいか、がテーマになってしまうと、そこに善し悪しが生まれてしまいます。しかし、私たちがいる、存在しているということに、善し悪しはありません。私たちが今、こうして生きていることがまぎれもない正解なのです。ありのまま、存在していることは、正しいことなのです。

インドや、バリ島など、ヒンドゥー文化がまだ色濃く残っている国をたずねると、塔の上に玉座が乗っているのをよく見かけます。この玉座のことも、実はアーサナと言います。
ヒンドゥー文化の祈りの儀式は、まず、神様をこの椅子にお招きし、座っていただくことから始まります。神様、どうか「おわしましてください」というのが、この「アーサナ」という言葉の意味です。

つまり、アーサナとは私たちはあなたがいてくれるだけで十分です、というメッセージなのです。

さて、そろそろヨガが様々な病気のリハビリとして注目を集め始めていることについてお話ししたいと思います。

ちょっと大胆な言い方をしてしまえば、ヨガでがんは消えません。どんなに深い呼吸が身体によく、免疫によい影響を与えるとしても、ヨガで病気は治らないのです。

でももしかしたら、ヨガは、病院では出してもらえない薬の代わりをしてくれる可能性はあるかもしれないのです。

たとえば、検査結果がでるまでの不安でたまらない時期、手術が無事終わり、リハビリをしながら社会復帰を目指そうというときの、自信のなさ、などに、お医者さんは薬を出してくれません。

患者さんを心配し、夜も眠れないご家族のために出してもらえる薬もありません。

これまで、長々とヨガとは何かについてお話ししてきたのは、ヨガがポーズに重きを置いた単なる運動療法ではなく、呼吸や身体の動きに意識を向け、今生きている自分自身に気づくことだということをお伝えしたかったのです。

ちょっとこういうエクササイズをしてみましょう。
自分のことをぎゅっと抱きしめてみましょう。
そのまま、ゆっくりと自分の呼吸を5回数えてみましょう。

自分を抱きしめて、呼吸を5回数えてみる。自分の身体が膨らんだり沈んだりしていることがわかりますか?

そのときに、必ずしもリラックスしなくてもいいのです。自分は緊張しているかもしれない。そのことをありのまま観察してみていただきたいのです。

ヨガイコール何かの改善、でもなく、ヨガイコールリラックスでもありません。ヨガは自分と、もっといえば、自分だけと向き合う時間なのです。
では実際に、乳がんの方のヨガのクラスではどのようなことが行われているのでしょうか。

患者さんと言っても、その病状から、治療のステージまで様々です。また、日によって、体調がいい日もあれば、悪い日もあるでしょう。
これが、乳がんの患者さんにとっての万能薬、「ザ・乳がんリハビリヨガ」というメソッドがあるわけではありません。

理想的なことをいえば、一人一人の患者さんのその日の体調に合わせたポーズや呼吸法を行えばいいのですが、なかなかそういうわけにもいきません。また、人によっては、手術であがらなくなった腕の可動域を戻していきたい、という希望でこられる方もいらっしゃいます。

乳がんを体験された方にとってのヨガの可能性、というものは、まず、乳がんというものが他のがんに比べ、非常にかかる年齢が若いということがあげられます。また、がんの中でも最も研究予算が潤沢で、治療方法にもたくさんの選択肢があります。それだけ、早期に発見をすれば治療の効果が現れやすいがんと言われています。このような特徴が何を意味するかというと、まだ子育てのまっただ中、あるいはキャリアアップの最中にがんにかかり、治療を始められる方が少なくなく、そして、十分に治療後の社会復帰が可能ながんであるということです。そして、リハビリにどのように取り組めたかどうかが、社会復帰のありようを左右するということでもあります。

そうは言いながらも、実際に治療の最中は、体調も安定せず、もしかしたら希望を持つことすらできないかもしれません。ヨガがリラックスにいいよ、と言われても、検査を待つ間は、ヨガどころか、何も手につかない、という方がほとんどだと思います。

治療の他に、様々な民間療法を試されている方も少なくないと思います。ヨガは、実際様々な疾病の「補完代替医療」として、注目を集めはじめてますが、ここで大切になってくるのは、補完代替医療としての立ち位置は、言葉通り「補完」する、という気持ちを忘れてはいけないのではないかということです。

リハビリとしてのヨガを進めることは、決して、今している治療を否定することではありません。むしろ、今取り組んでいる治療の辛さを和らげたり、不安な気持ちを落ち着かせたり、協力してくれるお医者さまや家族に素直に感謝の気持ちを伝えることができるかもしれません。

一般的に、胡散臭い、と言われる補完代替医療の特徴というのは、自分たちのやり方が一番と声を張り上げているものではないかと思います。

私はヨガが一番である必要がないと、思っています。ヨガをはじめることで、これまで諦めていた他の趣味を再開できた、とか、他の運動が楽しくなったとか、そういうきっかけ、媒介でいいと思いますし、実際そんなものはありませんが、 完璧なヨガを極める必要もないのです。ヨガは「すること」ではなく「いること、あり方」です。ですから、いいとこ取りをしていただいて、全然OKなのです。

今、世界的に見て、効果的といわれる補完代替療法が、ひとつの方向を向いていると言われています。それは何かと言うと、呼吸が早くて浅いと、ろくなことがない、ということです。私も今、3歳の息子の子育てまっただ中ですが、子供にいやいやされると、堪忍袋の緒がしょっちゅう切れてしまいます。そんなときはやはり呼吸が速く荒くなっているのが自分でもわかります。

たとえば、うつ病を患っている方は、あおむけになれないと言われています。起きているときも、背中が丸まり、深い呼吸をするにはかなり無理がある姿勢です。仰向けで寝ることが睡眠の姿勢として絶対的に正しい、というわけではありませんが、深い呼吸で眠ることで、私たちはその日一日の疲れを回復させているわけですから、浅い呼吸しかできない睡眠では、疲れはたまっていく一方です。

操体としてのヨガの始まりは、古代のインドの行者たちの人間観察に基づいています。つまり、人間とはどういう傾向がある生き物か、ということを観察に観察を重ね、どういうときに、行き詰まるか、ということを知ろうとしたわけです。

朝起きたときは、地面と水平だった人間の背骨は、一日生活すると、否が応でも疲れた状態になります。だから、背中が丸まり、腰がきつくなるわけです。
みなさんもちょっとやってみましょうか。
やーやー、くたびれた、という感じで、背中を丸めてみてください。

(実技)

では、その状態で、深呼吸をしてみましょう。なんと、呼吸が入ってこないわけです。こんどは、できる限りで結構ですので、背骨をすっと伸ばしてすわってみます。さあ、その状態で深呼吸してみると、どうでしょう、スムースに空気が入ってきます。

つまり、ヨガのポーズは一見奇妙に思えるものが多いと思いますが、あれは、人間が陥りがちな悪い姿勢に逆刺激を与えたり、筋肉を鍛えたり解放したりするようになっているのです。

たとえばですが、深くてゆっくりした呼吸ができるようにするために、中国伝統のやり方をすれば、太極拳になるでしょうし、正しい姿勢を作るドイツ風のやり方をすれば、ピラティスになります。インド風に行えば、ヨガになるというわけで、ヨガ以外にも呼吸を整える方法はたくさんあります。
それでも、あえてわたしがヨガをお勧めしたいのは、今日の前半にお話しした、ヨガの背景にある哲学というものが、ありのままの自分を認め、今生きていることを思い出し、何かをすることではなく、あなたがいることに、価値があるんですよ、あなたが生きていることが、この正解での紛れもない正解なんですよ、というメッセージだからです。

病気を患うと、わたしたちはどうしても、犯人探しに走ってしまいます。
何がいけなかったんだろう。何をしてはいけないんだろう。でも、犯人はさがしてもさがしても捕まらないのです。それに加え、この情報化社会です。検索のし過ぎで、目が疲れるまでパソコンやスマートフォンとにらめっこしている人も多いのではないでしょうか。

さて、私は不妊治療を支えるヨガというジャンルにも取り組んでいますが、実は目の疲れは、骨盤のコンディションと大きく関係していることをご存知でしょうか。「産後の針仕事は目をつぶす」といわれるのを聞いたことはありますか。出産後は骨盤回りは疲弊してくたくたです。そんなときに更に赤ちゃんのために針仕事に精を出しすぎると、視力ががくっと落ちますよ、ということなのですが、これは、目の神経も、骨盤につながる神経も、自律神経を介し連動している、ということだと言われています。

ですから、不妊治療に熱心に取り組まれて、骨盤内の血流をアップさせたいと思っている方が、目がショホショボしてしまうほど情報検索にみをやつすのは、本末転倒だということです。

同じように、もしみなさんが心の平安を取り戻したい、というときに、情報をたくさん集めて自分を安心させよう、というのは、身体にとってはもしかしたら逆効果かもしれないのです。

乳がんの講演会なのに、なぜ骨盤?と思われるかもしれませんが、話はまた呼吸のことに戻ってきます。私たちは一見、肺で呼吸をしているように感じていますが、肺呼吸を補助しているのは、何だと思いますか? あまり日頃、意識しないところですが、みなさん名前だけは知っていると思います。

そうです、「横隔膜」です。この横隔膜が、下に引っ張られたり、戻ったりすることで、呼吸をサポートしているわけですが、この横隔膜の動きのもとになっているのが、実は背骨と骨盤の微妙な動きなのです。

つまり、骨盤に弾力があれば、骨盤はしっかり動くことができて、深い呼吸ができるわけです。骨盤に弾力がありそうな人たちと言えば、サンバカーニバルで踊っている女性たち、彼女たちは見るからに弾力ありそうですね。そして、眠りも深そうです。それが、だんだん年を取ってくると弾力が失われ、眠っている間の呼吸が浅くなり、朝早く目が覚めてしまうわけです。それを、私たちが携帯やパソコンの見過ぎで、みずから骨盤の弾力を失わせてしまうのは、とてももったいないことなのです。

病院では「不安に効く薬」は出してくれません。出してくれたとしても、その薬はもしかして、一度使い始めると、やめるのに倍以上の時間がかかるくすりかもしれません。
また、家族の方が不安で仕方がない、といくら訴えても、今の日本の保険制度では、家族のための処方箋をだしてもらえることはありません。

ヨガが乳がんの予防に効果的だ、とか、回復を早める、という研究論文は、未だ世の中に発表されておりません。しかし、ヨガをするときに意識して行う、深くゆっくりとした呼吸が、リラクゼーションをもたらし、ストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの値を下げる、ということはすでに広く知られています。

ひとつ分かりやすいお話をすれば、肺の上の方には、闘争、逃亡反応といわれる交感神経のレセプターが多く集まっています。一方、リラックスを司る副交感神経のレセプターは肺の下の方に集まっているのです。
赤ちゃんが、穏やかにすやすや眠っているときは、鼻でゆっくりとした呼吸をしています。それが、わっと泣き出すとき、一気に口を使った呼吸に切り替わるのです。
ですから、深呼吸をすると気持ちが落ち着くとか、深くゆっくりとした呼吸をすることで、不安が和らぐ、ということはあながち嘘ではないということなのです。

しかし、病院では、辛くなったときは、深くゆっくりとした呼吸をしましょうね、というアドバイスをしてくれるところはまだまだ少ないと思います。

さっき、肩に手を当てて(ジェスチャー)身体の動きを感じながら深呼吸をしてみる、あれでもいいのですが、もっと滑らかで、深い呼吸が自然にできるヨガの動きをご紹介したいと思います。これは、街のヨガ教室では「キャットアンドカウ」すなわち「猫と牛のポーズ」と言われています。

みなさんに、これはまた後でお話ししますが、覚えていていただきたいのは、ヨガが術後の回復にいいからといって、乳がんの手術をされた方が腕に必要以上の負荷をかけて行うポーズは、リンパ浮腫のリスクを高めるため、避けていただきたい、ということです。あえて行うのであれば、写真のように腕を椅子に上げて行う方法があります。

他にも、ヨガでは定番ポーズと言われる、下向きの犬のポーズや、コブラのポーズも注意が必要です。

たとえば、このポーズは、椅子や壁を使ってこのように行うことをお勧めしますします。

特にこのポーズはオススメですね。リンパ浮腫の専門の先生にお聞きしたところ、腕に負荷をかけるのは危険だけど、ある程度の筋肉をつけておくことは大切だ、とのことでした。息を吸って、吐いて、に合わせて行うことがポイントです。

さて、先ほどの四つん這いのキャットアンドカウですが、椅子に座ったまま行えば、腕に負担がかかりません。一緒にやってみましょう。

足を軽く開いて座ります。

手はひざの上に軽く乗せます。

まず、鼻から息をゆっくり吐いていきましょう。吐きながら、背中を丸めて、おへそを見るようにしていきます。

吐ききったら、今度はできるだけゆっくり息を吸いながら、背中を伸ばし、軽く反らせていきます。反らすのは、軽くでいいです。お顔を天井に向けるぐらいの気持ちで十分です。

私はこのポーズを、わかめのポーズと呼ぶこともあるのですが、みなさん、海の中でゆらゆら揺れている若布や昆布になったつもりで、できるだけなめらかに行ってみましょう。息を吐きながら、身体を丸めていきます。
息を吸いながら、背骨を伸ばし、おもてを上げていきます。
繰り返します。
あと一往復いってみましょう。吐きながら、丸めて、吸いながら、伸ばします。

みなさん、ありがとうございました。
さあ、ちょっと背中を伸ばして座ってみてください。どうでしょうか。骨盤が立ちやすくなり、先ほどより、姿勢がよくなった気がしませんか?

今やっていただいた動きは、呼吸にあわせた骨盤の動きに、あえて呼吸を大げさに同調させてみることで、呼吸と身体の自然な動きを意識しながら、ゆっくり行うことができる簡単な運動です。意識しながら行うことで、ゆっくりできる、つまり、呼吸をゆっくりできる、というわけなんですね。椅子にただ座って、はい、ゆっくり呼吸してください、と言われても、おそらくみなさん途中から苦しくなって顔が真っ赤になってしまうと思います。この動きは、やっているうちにどんどん背骨もしなやかになって、身体を揺らすのが気持ちよくなっていくのが特徴です。

キャットアンドカウ、別名、わかめのポーズ、でした。
家にいるとき、職場にいるときだけでなく、実はこっそりトイレでもできるので、みなさんちょっと焦りを覚える、不安で仕方ない、なんてときにやってみてください。

乳がんリハビリとしてのヨガ、をお伝えするときに、一番気をつけていることがあります。それは、ヨガは魔法ではない、ということです。ヨガをやれば、嘘のように気分がよくなる、とか抱えている問題がすべて解決するわけではありません。

でも、ヨガは、ゆっくり長く効く薬のようなものだと言えるかもしれません。
西洋医学の薬は、もしかして、効き目も早いかもしれませんが、その効き目もすぐに遠のいてしまいます。ヨガは、効き目を実感するのには、もしかして時間がかかるかもしれませんが、一度効き始めると、長く、ゆっくりそのよさが続きます。

楽器の練習とも似ているかもしれません。
練習を始めるときはまだ、おもしろくないかもしれません。でも、だんだん自分なりに上手に奏でられるようになってくれば、どんどん面白くなってきます。でも、演奏家になるのでなければ、別にプロ級の腕前になる必要はありません。自分が楽しく演奏できれば、それで十分なんです。

ポーズに効果を期待しない、ということも実は大切なことです。人は、そうはいっても期待するのが大好きな生き物です。でも、このポーズはこれに効いて、このポーズがこれに効いて、ということばかり考えてしまうと、ヨガが「する」ものになってしまいます。そうなると、本来のヨガのよさである「いる」ことに感謝し「いる」ことを味わう、という原点から離れていってしまいます。

もし、ヨガに効能があるとすれば、しばし時間を忘れて、自分の中にスペース、空間がうまれた、ということかもしれません。

わたしがヨガセラピーを学びたいという先生方に普段お伝えしているのは、先生の仕事は「スペースクリエイター」だ、ということです。

私たちがとにかく辛いと思うとき、それはもちろん病気による体調の悪さ、痛み、などもありますが、からだと心にスペース、空間がなくなってしまったとき、だと思うのです。たとえば、気持ちが落ち込んで、姿勢が悪くなったり、運動不足になったりすると、からだを動かすのもおっくうになってしまいます。それを無理矢理運動に励みなさい、というのはやはり少々乱暴なやり方であって、少しずつ、身体の中の空間を広げていくお手伝いをしていくのが、先生の仕事なのではないかと思っています。身体のスペースが広がっていくと、心のスペースも広がっていく、というわけです。

そのスペースの鍵を握るのが、前半にお話しした「シングルタスク」になります。
そうでなくとも、みなさんのスケジュール帳には、毎日予定がいっぱいいっぱいではないでしょうか。それは、現代社会を生きていく上では仕方がないことです。でも、だからこそ、ヨガ教室に足を運んでみたり、ヨガをする時間を設けてもらったりしてほしいのです。マインドフルネス、つまり犯人探しの手をちょっと休めて、善悪の判断はいっさいせず、目の前のことを観察してみる時間をわざわざつくってみてほしいのです。何かをじっくり観察してみるような、時間の余裕も心の余裕もないから、自分が今、生きていることの実感すら、薄くなってしまう、情報があふれる現代はそういう時代だと思います。

さて、みなさん、身体にスペースをつくるには、実際どんなことをしたらよいのかと思おいだと思います。

乳がんリハビリヨガには、大きくわけて、二つの流れがあります。

ひとつは、手術をした部位を動かすのは、怖いかもしれません。もしかして、可動域が狭くなってしまい、思うように動かないかもしれません。でも、他には動かせるところはたくさんあるわけです。

たとえば、眼球をゆっくり動かしてみる。たとえば、息を吐きながら首を方向けてみる。たとえば、先ほどやった、わかめのポーズ、くねくねと動かしたあれですね。
それから、将来的に社会復帰を見据える上で、実はとても大切なのが、足の力です。
病院に通うだけで気持ち的にもいっぱいいっぱいで、それ以外はあえて外出はしていない、あるいは、とにかく人に会うのを避けたい、という時期もおありかと思います。気持ちが守りに入り、今までしていた運動もやめてしまった、という方もいるでしょう。
でも、足の力が衰えてしまうと、ますます外出する機会は減ってしまいます。また、ふくらはぎの筋力が落ちてしまうと、血液やリンパ液を心臓に戻す力が弱くなってしまいます。せっかく治療をして、普段通りの生活ができるようになったのに、なんだか身体の疲れがとれない、というのは、言葉通りまだ体力が回復していない、ということでもありますが、それはふくらはぎの筋肉の衰えが原因かもしれないのです。

ですので、今日この講演をお聴きになって、じゃあそろそろヨガでも始めてみようか、ということでなくて構いません。一日一回でいいので、どんなかたちでもいいので、今日も足の筋肉をちゃんと使ったな、という気持ちを持っていただきたいのです。

たとえば、椅子に座ったまま、足首をクルクル回すだけでも構いません。テレビを見ながら床に座って、足首を回すのでもいいです。椅子につかまって、深呼吸をしながらスクワットをするでもいいです。意外とヨガ教室で人気があるのは、お尻歩きですね。これはいいですよ。椅子に座ったままでもできるんですよ。ちょっとみなさん、やってみましょうか。お尻のお肉を交互に椅子から離して、腰を振りましょう。お尻の筋肉だけでなく、腕も振りますし、腹筋にもはたらきます。何よりいいのは、これ、むっつりした顔でできる人って、あまりいないんですね。なんかわかんないけど、笑っちゃう。みなさんいい笑顔をされています。自分のやっていることを笑えるのは、こころの健康のバロメーターだと思います。
病後の回復期は、保守的になって当然です。私の父もこの春、高齢になってからがんと診断されました。その前から、ヨガをいっしょにやろうと誘い続けていたのですが、腰も痛い、膝も痛いのに、そんなことはできない、の一点張りでした。

でも、身体のどこかに痛みがないところはきっとあるわけです。そこをまずは動かしてもらいましょう、というわけで、父の場合は、偉大なるお腹でした。ふっくらしたお腹には痛みはありませんでした。「お父さん、寝て!」「おう、こうか」お腹に、サンドバックと呼ばれる砂の袋を乗せました。3キロぐらいありますが、これを乗せて呼吸をすることで、いわば横隔膜の筋トレになり、深くてゆっくりとした呼吸ができるようになります。「お父さん、息して!」「おう、こうか」
メディカルヨガの現場なんて、実際はこんな簡単なことから始まっているわけです。深い呼吸が心を前向きにしてくれ、もうひとつ続けてほしいと部屋中に紙を張りまくったスクワットを始めてくれました。それによって、歩くのが怖くなくなり、今では、がんを抱えたまま元気に競馬に通っています。もちろん、病状によってこのケースが当てはまらない場合もあります。でも、今日みなさんにお伝えしたいことは、動かせるところは意外とたくさんある、ということです。

乳がんリハビリヨガは、つまり、まだまだ動かせるところを呼吸にあわせて無理なく動かしていきながら、何も考えない。いや、何も考えない、というのは人間は無理なので、呼吸を数えてみたり、身体に意識を向けたりして、普段の生活でいろいろ考えすぎてしまうみなさんの大脳小脳に、すこし休暇を取らせてあげましょう、という提案です。ですので、このポーズをすればこれがよくなった、とか、これがてきめん効いた、とかそういうことではないのです。大切なのは、からだを動かして、血の巡りをよくしてあげれば、心の風通しも良くなるから、まあ、やってみましょう、ということなのです。

もうひとつの乳がんリハビリヨガのテーマとなってくるのは、ヨガの動きを応用して、腕の可動域をあげていきましょう、ということです。

手術のあとの腕の可動域の回復には、時間がかかります。理学療法士さんのもと、目盛りとにらめっこしながら、というやり方もあるかもしれません。でも、それに加えて、もうひとつ、ヨガをしながら少しずつ可動域をあげていく方法も、選択肢に入れていただけたらと思うのです。

たとえばですが、こんな動きを一緒にやってみましょう。

顔の前で、手のひらをそっと合わせます。
息を吸いながら、心の扉を開くように両腕を開きます、息を吐きながら、こんどは自分の世界を大切に、
もう一度やってみましょう。
息を吸いながら、開いて、吐きながら、今度は安心感です。

最初は、これぐらいしか開かないかもしれません。でも、このポーズには、完成形や、目標とする角度があるわけではありません。一人一人、気持ちよくできる角度は違っていいのです。

もうひとつ、こんな動きもやってみましょう。
両手を胸の前に伸ばします。これが辛い方は、前の方の椅子の背もたれに手を乗せてもいいですし、自分のわき腹を抱きかかえてもかまいません。もう一方の腕を、息を吸いながら、伸ばせるところまで開いていきます。吐きながら、戻します。反対側もやってみましょう。息を吸いながら、腕を開いて、視線は、指先を追いかけます。吐きながら戻して。もう一往復してみましょう。息を吸いながら、開いて、吐きながら戻して。息を吸いながら開いて、吐きながら戻して。

それから、みなさん、背中側の腕の付け根は、どこにあると思いますか? 肩の後ろでしょうか。いえ、実は広背筋や腰方形筋といわれる、腰の筋肉なんです。つまり、腕の動きを良くするには、腰を伸ばすといいんですね。

先ほど、写真でもおみせしましたが、ヨガではよく使われる、下向きの犬のポーズ、これを壁を使っておこなうバージョンであれば、腕の可動域を無理することなく、腰を伸ばすことができます。ポイントは、膝を軽く曲げておくことです。

もう少し、肩関節が広がってきたら、椅子を使って行ってもいいと思います。このポーズのよさは、自分の身体の重みでゆっくりと肩を開いていけるところです。

腰を伸ばすにはこれもいいです。子供のポーズといいますが、腕は、前に伸ばすと、肩関節にまだ無理が来てしまう方もいるかと思います。ですので、腕は体側にそわせたままでいいです。誰かにもたれかかってもらう、あるいは、少々大胆ですが、乗ってもらうでもいいでしょう。化学療法で骨が著しく弱くなっている場合はお勧めできませんが、そうでない場合は、腰をやさしく伸ばすことで、腕を直接上げる動きをしなくとも、腕の可動域が広がっていきます。
実は、寄りかかってもらうことによって、ご家族の方も胸が開き、お互いの呼吸を感じあうことでリラックスできるんですね。

別なやり方としては、普段生活しているときでも、座りっぱなしだな、と思ったら、少し身体を横に揺さぶりながら、わきをのばすといいんですね。この背中の筋肉が緊張してしまっていると、どんなに腕を動かそうとしても、ブレーキがかかってしまい、逆にこのブレーキを外してあげれば、腕は動きやすい方向に向かう、ということです。

椅子に腰掛け、無理のない高さで壁に手を預け、軽く目を閉じて自分の呼吸を数えます。身体の中に何か感じるものがあれば、それを感じるままに観察してみます。無理に、心を無にしようとか、瞑想しなくては、なんて考えなくて構いません。自分の身体が今、こんな風に感じられる、ということを観察してみてください。

最後に、ヨガではからだを動かした後に、あおむけになってシャバアサナとよばれるリラクゼーションの時間を持ちます。実は、この時間も腕の可動域を無理なく高めていくチャンスです。みなさん、今、椅子に座りながら両腕をあげる、といえば、きっとしんどそうと思うかもしれません。

でも、ここではスライドだけで失礼しますが、あおむけになって、自分の楽なところに手を投げ出してみます。そこから、ほんの少しだけ、腕を頭の上の方にずらしてみましょう。すると、軽くストレッチが感じられると思うんですね。そこに、深呼吸、酸素をたくさん送り込むつもりで、身体が地面に溶けていくようなつもりで呼吸をしていきます。人によって、そうはいっても腕がきつい、という方もいるかと思います。その場合は、ゆかと腕の間を枕やクッション、バスタオルなどで埋めてみましょう。

実は、そのときのポイントがもうひとつあって、バスタオルを丸めたものでも、お家でやるときは枕でもクッションでもいいです。ヨガ教室でやる場合は、丸めたヨガマットを一本お借りして、膝をゆるめてあげてほしいんですね。普通のヨガクラスで行うシャバアサナは、手足を一直線に伸ばしたまま行いますが、ヨガセラピーでは、膝を軽く曲げるのが鉄則になっています。なぜか。膝が伸びたままだと、お腹が弛まないんですね。お腹が緊張していると、心の緊張もとれないんです。人はお腹がふっと弛むと、心も弛む。だから、弛ませたいときは、膝は軽く曲げるといいんです。

ぜひ、お家で休まれるときの工夫としてこんな方法も試してみていただきたいと思います。

今日は、乳がんのリハビリとしてのヨガについて、きっと全てはお伝えできなかったかもしれませんが、最後に、みなさんがどんなところでこの乳がんリハビリヨガを受けられるか、というお話をさせていただいて、まとめにしたいと思います。

一般的なクラスに参加するときは、次のことを心がけていただきたいのです。

先生に、治療中、術後であることを伝える。
疲れたら、座って、あるいは横になって休む。
他の人とポーズを比べない。
今日はこのぐらいでいいや、というところを探す。上手に手を抜く。

日本では、乳がんの患者さんが安心して通えるスタジオというのは、まだまだ多くありません。でも、少しずつ増えてきています。参加者を乳がんの方だけに限り、ウィッグを外してヨガをしよう、というクラスもありますし、ご家族と一緒に受けられるクラスなどもあります。私がこの仕事をしていて一番希望を持っているのは、乳がんリハビリヨガを伝えていただく方が、実際に乳がんを治療され、リハビリに励み、ヨガに出会い、その体験を同じような不安を抱えている仲間に伝えていこう、という方がどんどん増えていることです。ご自身が乳がんを、というだけでなく、自分の家族が乳がんになったことをきっかけにヨガを学ばれる方もいらっしゃいます。これは、日本だけでなく、世界的に広まっている動きです。

私もこの仕事を始めるにあたり、ペットで全身のがんの検査を受けました。今のところ、がんは見つかっていませんが、これからどうなるかわかりません。でも、乳がんリハビリとしてのヨガを伝えていくにあたり、私には決して超えられない川が存在することも事実です。同じ体験をした人だからこそ、安心して打ち明けられること、相談できること、ということは必ずあると思いますし、逆も言えると思います。私がいま、がんにかかっていないからこそできることがあるかもしれませんし、がんを克服された方の中には、がんであったことを忘れるぐらいの気持ちで生活をしたい、という方もおられることでしょう。なので、どちらがいいか、ということではないのですが、一度乳がんを体験している方にとって、ヨガを教えていただくことをひとつの可能性として考えてみていただきたいのです。決して無理なことではないということを証明してくれる先生がすでにたくさん活躍されていますし、ヨガをすることでご自身のためにもきっといい時間を過ごしていただけると思います。何かを教える、指導をする、と思ってしまうと難しく思えてしまうかもしれませんので、むしろ、一緒にヨガを楽しみましょう、というぐらいの気持ちで十分です。

これからの10年、日本の乳がん患者さんが、安心してヨガを楽しめる環境づくりに努めていきたいと思っていますが、鍵を握るのは私ではなく、地元のヨガ教室だと思っています。今日はお話をいただく機会をいただきましたが、実際患者さんが通えるところでクラスが開催されていることが、一番大切です。ですので、今日この講演に足をお運びいただきましたみなさんにも、ぜひヨガというものが、思っているほど難しいものではないということを知っていただき、ご自身でもぜひやってみていただけたらと思います。

(最後に、まとめといたしまして今日お話ししたことを繰り返させていただければと思います。
ヨガの語源は、結ぶ、つなぐということであること。
何と何をつなぐのか。人生にはいろんな矛盾や葛藤があるけど、あるのがありのままの人間ですよ、ということ。
ナマステの右手には、自分の好きなところ、左手は自分の嫌なところ。どっちも愛おしく思ってあげましょうということ。
ヨガのポーズの本質は「する」ではなくて「いる」なんですよ、ということ。つまり、私たちが今、こうして生きて、顔を合わせていられることが、まぎれもない価値であり、世界における正解なんです。ということです。
なので、乳がんリハビリのヨガをするにあたっては、ポーズができたかどうか、ということではなくて、自分の呼吸に意識を向けたり、自分の身体に意識を向ける、シングルタスクの時間を持てたかどうか、ということが大切です。
リハビリというと、どうしても動かないところを動かしていくことと思いがちですが、むしろちゃんと動かせるところを動かすことで、身体にスペースをつくっていくこと。特に、足の筋肉を鍛え、腰の筋肉の緊張をといてあげることが大切だと言うこと。リハビリとして腕の可動域をあげていく場合も、腕のことだけ考えるのではなく、ゆっくりと呼吸をしながら、そこに酸素を送り込むつもりで動かしてみてください。ヨガをするときに気をつけていただきたいのは、腕に負担がかかるポーズはリンパ浮腫のリスクを高めるので避けるか、体重のかかり方を軽減するように壁や椅子を使いましょう。そんなことを今日はお話ししました。)

それでは、最後にもう一度、みなさん両手を合わせ、隣近所の方と、ナマステ、とご挨拶してみてください。お腹空いたね、でもいいです。そして、この、お互いの穏やかで和やかな表情を覚えておいていただきたいのです。今のみなさんの顔こそが、生きているヨガのかたちです。
本日は、ご清聴ありがとうございました。

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(注)本記事はBCYの前身であるルナワークスの乳がんヨガHP当時のものとなります。
2013年10月15日 | 講演情報など
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